2017年2月6日月曜日

五感→三感の話と総集編(2003年3月BW誌別冊バスギア2003)

バスワールドの連載終了時に同時進行で書いていたのがバスギア用の、少し踏み込んだ総合編です。一部連載と重複しますが、当時は一年以上前の、しかも月刊誌の原稿ですので、記憶に残る幅としては、ちょうどいいくらいだと思います。

以下原稿


バスギア2003
アカデミックレイク特別編集
魚に近づきたいだけのアングラー、小川健太郎が送る、バスの生態から考えるルアーフィッシング

◆バスの五感を知る
 ルアーフィッシングでバスや様々な魚を狙っていく上で、どうしても知りたい部分が生まれてくる。それは「魚は、このルアーをどう捉えているんだろう」という疑問である。魚の感覚と人間の感覚の違いはどういう部分にあるのだろうか。

●魚の五感?
 人間の五感というものがある。これは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という感覚で、この5つをそれぞれの器官で感知することによって身を守ったり、物を食べたり、と生活できるというわけだ。
 我々人間の五感は次の感覚から成り立っている。
・視覚:光を見る
・聴覚:音を聞く
・触覚:皮膚で触る
・味覚:味を味わう
・嗅覚:匂いを嗅ぐ
 この五感が魚だとどうであろうか。人間と同じように考えるわけにはいかないので、水の中での感覚を想像しながらこれら五感を魚に置き換えて考えていこう。
 魚は人間と違って水の中という、密度が833倍も高い空間の中にいる。この水という存在が感覚器官の大きな違いに関わっているのだ。おおまかにわければ、魚はこの『水』の存在のために、これらの感覚が3つに分けられる。というより、聴覚と触覚という『波(音から衝撃まで)の感知』、味覚と嗅覚という『化学物質の判別』をそれぞれ同じような器官で、あるいはそれぞれを同様の信号として感じ取っていると考えられるのだ。

●感覚器官
 それぞれの感覚受容器官だが、まず、視覚は目で捉える。様々な説はあるものの、バスの場合我々が識別している色の中でも、おおまかな色はだいたい見えていると考えられている。実験では、水槽の背景にカラーを配置して、どの色に依存するかを調べたりしている他、心拍数を測定する実験も行なわれており、特に赤には大きな反応を示すことが知られている。
 聴覚は側線といわれる器官やウキブクロで受容し、耳に相当する器官へと伝える。側線は魚の体の横に点線のように伸びているのを見ることができる、あの線のことである(図参照)。側線は一個一個を調べると袋状の穴になっており、袋の底に感覚毛が生えている。この穴の中に水の波が入ることによってこの毛が揺れ、水流や音を感知する。この他にも鼻の働きをするクボミや目の周りにも側線器官を持っている。また、水中を伝わる音はウキブクロ(鰾)の中で共振させ、内耳、そして脳へと伝えられる。こう行った仕組みを総合すると、バスは水平方向の真横からの音に対して特に敏感で、また、音源をハッキリつかみやすいのは前方である、と考えられる。つまりは人間と同じような感覚なのではないだろうか。これについての実験も行なわれており、バスは音源を理解できているのではないかと見られている。また、触覚は側線による波の察知の他、魚の種類によっては皮膚の神経で感知するものもいる。
 味覚と嗅覚だが、基本的には口回りで感知するものが一般的である。味覚も嗅覚も化学物質の判別なので、感覚に差異はないと思うが、口の上部に水を通す仕組みの鼻孔があり、遠くのニオイとなるわずかな化学物質を嗅ぎ分けているといわれる。もちろん口内の神経でも味もニオイも感じられる仕組みになっているので人間に近いのかもしれない。ただ、水という溶媒の中に生活しているため、判断スピードは人間の比ではないと思う。

●ルアーを発見する順番
 魚がルアーを発見する順番は、まず音、波(最近よく波動と呼ばれている水圧変化のこと)を感知することが第一となる。色、姿の識別、味/匂いの判別はその次、となる場合がほとんどと考えられる。しかし、捕食の瞬間においては視覚がもっとも重要であることが分かっているし、遠く離れたエサを匂いによって察知することもある。

●反射という言葉
 よく「反射食いってホントにあるの?」と聞かれることがある。私は「ほとんどが反射です」と答えている。その理由はこうだ。魚がルアーにバイトするまでの順番を考えてみよう。まずバスの場合、本来捕食には聴覚で発見→アプローチ→視覚で認識→嗅覚で確認→攻撃またはバイト→味覚で最終確認→飲み込む、という行程がとられるべきである。べき、という言葉を用いたのは、この行程が大いに省略されている場合がほとんどだからだ。たとえば発見→認知→攻撃など、ルアーによく見られるような『確認抜き』の動作である。これを反射と呼んでいる。われわれ人間が夏、暑さのあまり冷蔵庫を開けて麦茶をとりだして飲み込んだらソウメンの汁だった、というのと同じものだ。つまり、いちいち確認していたらエサが逃げてしまう状況のときや、怒ったときに相手を確認なんてしてられるか?ということなのだ。もちろんニオイによる発見→捕食という場合もあるので確認という作業は「すべての感覚で感知した上での捕食決定を下す動作」と考えていただきたい。

◎視覚
バスが見る色や形について、ルアーとの関係を探ってみよう。

●色の基礎知識
まず、簡単に釣りの「色」についての知識の説明をしよう

★バスに色は、見えている。
 我々が見ているとおりかどうかは別として、バスには色が見えているようだ。例えばバスを入れた水槽の背景を赤、緑、なにもしない、の3パターンに交換して、バイオテレメトリーの手法を用いて魚の心拍数を測定すると、なにもしない状態に対して、赤では急激に拍数が上昇し、緑の背景では拍数が落ち着く。こういった実験などから白黒のコントラストはもちろん色彩などもかなり細かく違いがわかることがいえる。

★色選びは目線から。
 店頭に並ぶルアーの色を見てそのまま、アピールカラー、こっちは地味、と決めつける最近の傾向は、あまりよくないと感じる。なぜなら底をズル引きする場合やルアーを泳層にあわせる場合を除いて、バスは下から食いあげる場合が多い。このとき見えている色というのは、我々の見る店頭での目線の色と大きく異なるものがほとんどだからだ。

●白はナチュラルでもある
 魚の色を考えてみよう。背中は暗色、お腹は白というのが一般的な魚だ。これは実は理想的な保護色である。なぜなら鳥から狙われる背中には水(または底)の色、フィッシュイータ−から狙われる腹側には水面に同化するべく白がほどこされているのだ。つまり、下からバスを食わせるルアーなら白はナチュラルカラーに相当する、ということがいえる。我々が派手だと感じるのは、人間が目線より下でルアーを判断するからなのである。

●ベイトフィッシュも透かして見よう
 マッチザベイトを考えるのであれば、やはりベイトを魚の視点から見てみることも重要である。機会があれば水中に潜って上を通過する魚を見てみよう。案外白が目立たないことや、赤という色が消失する水深が目線次第で変わっていることがわかる。これは人間の目線でしか見ていなかった方には大きな衝撃につながるかもしれない。

★4つの視覚軸を理解する。
 ルアーの色を考える場合、「屈折と反射/白と黒/赤と緑/金と銀」というこの4つの軸を頭に入れておくとよいと思う。

●屈折と反射
 屈折は透過という言葉に置き換えることもできるが、生命感を「光の屈折、反射」で演出するならその具合をみる、ということ。たとえば「モエビは透けて見えるのでクリアカラーをチョイス」といったようなことから、「真っ暗闇などではメッキカラーを使うと反射光が強すぎ、恐怖信号になる場合があり、ホログラムやパールなどに換える必要がある」といったような場合まで、その応用範囲は多岐に渡る。

●白と黒
 先ほど述べたように白と黒は目線によってアピール度がまったく変わってくる。「ソリッドブラックでヒット」などの情報があった場合、ルアーの種類やリグからそのルアーのレンジと魚のレンジを予測しておくとよい。例えばもしそれが、水面での黒で釣れていたなら、これはアピールカラー、つまり高活性であった場合が想定されるのだ。
 また、周囲の環境光の変化によってもアピールが変わってくる。魚の目が順応するのは人間より遅く、いつまでも明るさ、暗さに慣れないことが多い。こういうとき、夕方は白、朝方は黒系にアタリが集中する。人間の目でこれを例えるなら、『暗い部屋と明るい部屋に出入りする白と黒の蝶を追いかけてみた』と想定して考えてみるとよいだろう。

●赤と緑
 赤と緑による釣果の差は、じつは魚の習性に大きく関わっている。簡単にいうならば、「赤に食性を示すのは回遊型」、「緑は居着き型」である。例えば日本でフロリダバスが混在する湖では、フロリダバスが回遊、ノーザンが居着くことで棲み分けている場合がある。こういった条件では、メインディッシュとなるエサが回遊=脊椎動物食、居着き=無脊椎動物食となるため、それぞれの視覚的な嗜好色が偏ってくるのだ。これは魚の実験でもよく知られている。ウォーターメロンがノーザンに効くといわれている理由も案外こういうことかもしれない。また、濁りや塩分濃度の急激な変化などによって視覚に制限が起きた時、赤ヘの嗜好はピンクへ、緑への嗜好はチャートへと変化するという検証も数度行なっている。

●金と銀
 反射のクロムカラーなかでも特にルアーカラーによく用いられるのが金と銀だ。使い分けについてはいろいろ言われているが、日光の照射量との関係が大きい。朝晩など日光が横から射すときや曇りの時は金が自然に光る。また、晴天の直射日光が当たる条件下では銀が自然に光る。銀は鏡ではないので、これは光の性質であり、この照射量によって自然にアピールするカラーが変わるのだ。ちなみにわたしは淡水の釣り全般を通して朝晩は金、昼間は銀を多用する(外洋はすべて銀)。すっかり暗くなると、この反射は恐怖信号に変わる可能性があるので、キラキラ光るクロムカラー自体の使用をやめる。この時暗くなればなるほどホログラムからアワビ張りへとチョイスを変化させると効果的であることが多い。これは反射光を一様に滲ませる効果を持っているからだと考えられる。

◎聴覚
バスが捉える音について、ルアーとの関係を探ってみよう。

●『波』が細かくなると『音』になる
 『音=波』これを詳しく説明すると、よくルアーが「水を押す」といわれるようなウマイ表現があるが、この「水押し」は『波』である。この『波』を魚はかなり離れたところから感知することができる。また、手で魚をつかもうと近付けると、目隠しした魚でさえ簡単に逃げてしまう。これも『波』を側線といわれる器官で感知したものだ。人間でいえばどちらの場合も触覚に相当する感覚のはたらきだ。逆に『音』は人間でいう聴覚という感覚になるが、これも水中を伝わる『密度(周波数)の非常に高い波』であり、これを側線で感知したり、ウキブクロで集音して内耳へ伝達するのは先に述べたとおりである。
 
●バスに聞こえる音
 通常、バスフィッシングでは、音を人間の耳で判断する場合が多い。工場での製作の段階でも同じで、せいぜい水槽の中で魚が反応するかどうかの実験しか行えないのが実情で、店頭で一般の人が「これは何Hzくらいの音だ。もうちょっと低いのがいいなあ」などと言っているとハッキリいって周りに人がいなくなるくらいアブナイヤツ扱いされてしまう(実話)。しかしながら、魚は音と波でルアーを発見するのだ。最低限の知識くらいは、こだわらないわけにはいくまい。
 バスに聞こえやすい音というのは個体差があるものの、通常3〜400Hzあたりを中心に、50Hz〜1500Hzあたりまでの周波数帯である。人間が20kHzまで聴こえることを考えるとかなり狭い範囲ということになるが、空気中と違い、水中ではこのくらいの音を感知することで十分生活できるのであろう。これ以上や以下の周波数の音は感じ取ることはできるが、判別などは難しいようで、脳波や心拍数に明確な影響はあらわれない。そのうえ、高周波が連続して発されると不快感を感じる個体も多い。
 ルアーの発する音は先述の魚の可聴周波数帯よりやや高めに作られていることが多い。しかし、やや高いシャラシャラした音が、連続して発されるルアーでは、魚はスレやすい。これは、あまり食性と関係ない音、痛い目にあった記憶、または群れのウチの最初に釣られるリーダー的存在(チャレンジャー)が危険信号を発したことなどへ結び付けられ、『学習』されてしまうのだ。これに対して低いゴトゴト系の音のするルアーだと常に生活に必要な音であるため、痛い記憶と結び付けられにくい(もちろん結び付けて学習される可能性は餌よりも大きい)。だいたいゴトゴト系のルアーで200〜600Hz、シャラシャラしたものは800〜2kHzとなる。

●水中の音
 水中では音は非常に伝わりやすく、秒速約1500mと、なんと空気中(344m/s)の4.5倍の速さである。しかも、陸上では考えられないほど遠くまで伝わり、音も小さくなりにくい。このため、水中では流れ込みの音など、絶えず離れた場所の音が入り乱れていることになる。湖ならまだしも、川などは雑音のまっただ中となる。ただ、こういった石や水の音は低いのでだいたい100Hz以内におさまっている。この雑音を『環境雑音』と呼び、この雑音の中で同様の周波数の音を発しても魚にはマスクされていて聴き取れない。これを『マスキング』と呼んでいる。つまり川など環境雑音の多い場所での使用ルアーはある程度高い音のほうがアピールが強い、ということが言えるわけである。
 また、ブルーギルやニジマスなどの実験で、魚の大小に関わらず、遊泳時にだいたい25〜100Hz前後の周波数帯の音を発している。湖を回遊して小魚を探すタイプの魚はこういう音をたよりに餌を探すことも多いようだ。
 このほかには肉食の魚が水中で餌を吸い込むときには2〜4kHzの「ジッ」「チャッ」という音が見られる。これらの音は、魚にとっては判別はできない範疇だと考えられるが、非常に短いパルス音であるため不快感は与えられない。このためこういう音が信号になって捕食が始まる、ということも考えられる。非常に高いシャラシャラ系の音のするルアーを、ほんのチョコッと鋭くトウィッチさせるような音だ。

●でかいバスに効く音
 これまで自分なりに研究して苦労したことがある。それは個体差だ。人間にも当然見られるのだが、バスのような大型の肉食魚の場合は、大きくなればなるほど個体差が強く出てくるようで、一概にこの音がどう、という内容を断言できなくなってしまうのだ。自分が総合的に感じているのはその場で釣れているルアーより若干低い周波数をもつルアーが「そこにいる、でかいバスが食う音」を発しているように思える。このことについての詳しい話はまたの機会にしてみたい。とにかくバイブレーションやノイジーで中型が爆釣した時に、これらのサイズにかまうのが時間の無駄である、と感じられる方だけ試していただきたい。数はダントツ落ちるがバスのサイズがかなり上がるはずである。同じルアーで少し低い音のするルアーがあれば…。


★★★★キャプション★★★★
側線器官の略図。袋状になっていて、感覚毛が周波による水圧の変化を感知し、この信号が神経に伝達される。
★★★★★★★★★★★★★★

◆バスの習性を考える
◎群れの法則(バスワールド2002年4月号掲載分)

 スクールバス。われわれアングラーがよく耳にする言葉だが、これは群れているバスのことを指している。しかし、魚の群れをすべてスクールと言うわけではない。ましてやその群れの形成に関して、由来が全く異なるものであれば釣果に響くことにもなってしまう。
 前回まででもちょっと恐ろしい内容であったが、さして苦情が出なかったので、今回も挑戦。いままでタブーのように語られることのなかったバスの集団社会へのアプローチを試みた。『群れ』に関する基本的な知識や、群れを利用した釣法までを紹介していきたいと思う。


◇群れの形成

●群れの形態
 魚の群れはその密度、方向性から4段階に分けられる(C.M.Jr.Breder/1965)。
★solitary:単体でいる魚、佇む魚。
★aggregation:漠然とした魚群。
★school:整然とした魚群、同サイズによる一定間隔で形成、同方向を同速度で進行など、統一された指向性を持つ。
★pod:密集。体が触れるほどに近接したものを指す場合が多い。
 バスの場合、上記のタイプのなかでもpod以外のすべてがあり得る。スクールバスといえるのはほとんどの場合幼魚期〜若魚期の同サイズで群れている状態だ。

●群れの定義
 動物の群れとは生物学的に『社会性のある集まり』と定義されている。こんなことを書いても面白く読んではもらえないとわかってはいるが、あえて読んでいただきたい。実は釣り、ことルアーに関しては、この定義こそがとても重要な情報なのである。事実、これを知っている人にしか釣れない魚がいるのだ。
 バスの群れは様々な要因で形成される。ひとつは一生、あるいはある時期だけ集団で生活する習性や親が子を守る期間内の集団などの必然性に由来する魚群。もひとつは一定のエリアに産卵巣を形成するために集まる造巣性、水温やウイード、シェードなどの適合環境への誘引による集団、走流性などの性質による集団、小魚を捕食するための不連続に形成される集団などの偶発的要因による魚群。
 A.E.Parr(1927年)の古い文献によれば、前者のような生来の魚群を『恒常的魚群』と呼び、いかなる環境条件の中でも安定していると定義付けている。また後者の魚群を『偶発的魚群』とし、環境要因の変化によって集合、離散が容易に起きうるとしている。これはもちろん水質悪化や日照条件の変化などもふくまれるが、釣り人という存在に起因するストレスも考えられる。つまり後者の場合、ひょっとすればアングラーの腕次第で群れを離散させてしまうことも考えられるのだ。
 恐ろしいことに、これらの集団は魚のことを知らない人から見ればどれも同じような群れに見えるかもしれない。しかしながら群れの原因をひも解いてみれば釣れる魚、釣れない魚もあっさり判明し、群れの習性を利用すれば、釣れない魚を釣るというオイシイことも可能になってくると考えられる。

●社会の形成
 群れには社会性があると述べたが、この話をバスの集団索餌という行動に絞って考えてみよう。バスのような生きたエサを追う魚は、この「社会性」によって群れの存続を制御していると考えられる。例えば、エビというエサがメインだった群れが季節変化や水質変化、水温変化などにより激減したとすれば、おのずとその群れは絶滅の危機に瀕してしまう。エビを食う群れはエビ以外の餌に簡単にはシフトできないのである。なぜか。現代の日本人に『食用イモ虫を食え』と言っていることと同じなのだ。これこそが群れの社会性である。
 「食べて無害のイモ虫を人間という動物が食べる」この行為は非常に簡単なはずだ。しかし、その文化も過去の事例もなければ、このイモ虫に手出しをする人はごく少数に限られてしまう。この「手出しする人」を私は『チャレンジャー』という名称で呼んでいる。チャレンジャーは、死ぬかも知れないというリスクを負いつつも、初めに食する好奇心を持っているために常に他人の支持を得ることになる。いわゆる『ファッションリーダー』と呼ばれる存在だ。
 話をバスに戻すと、バスは新しいエサを食べてみなければ生きていけない。このために、群れの中には自然に『チャレンジャー』があらわれる。初めて食う餌を、メインのベイトに据えることができるのか、やはり大衆は引っ込み思案気味に付いていくことになる。こうして数カ月のあいだに、チャレンジャーは、自然と群れを率いるリーダー格という存在になっている。こうしてバスの社会が形成されていくのだ。

●チャレンジャーの引き起こす現象
 ルアーフィッシングにおいて、チャレンジャーがバスの群れに引き起こす現象を述べてみよう。
★リリースしたら釣れなくなった
 見えバスがたくさんいて、一匹釣るときは大勢が反応したのに、その魚をリリースしたら全員が消えた、もしくは釣れなくなることが多い。この場合釣った魚がチャレンジャーであった可能性が高い。人一倍(魚一倍!?)注目を浴びる魚なので、傷付いて帰ったり、遠くへ逃げたりしたことで、他の魚も警戒しはじめるのだ。また、傷付いた個体は群れへの信号として、警戒音や恐怖物質となるアミノ酸を出すことが非常に多い。これも群れの存続に関わる機能で、淡水魚の場合、傷付いた魚には近寄らなくなったりする。
★大きい魚から釣れる
 連発するときに、大きい魚から釣れてくることがある。これは好奇心の強い個体から順に釣れていることが考えられる。2尾めあたりから気付けば、ライブウェルなどを利用してリリースを止めることで連発を持続しやすくできる。
★釣った魚に付いてくる
 スモールマウスバスやフロリダバスなどの回遊色の強い魚に見られる現象だが、釣れている魚にべったりと付いてくる魚がいる。付いてくる個体が極端に大きい場合はエサとして見ているようだが、同サイズの場合はチャレンジャーに抜け駆けされた準チャレンジャーである場合(または逆)が多い。一般大衆はチャレンジャーがリリースで帰って来なければ次のキャストで釣れる。また、話は変わるがこれらの種類は「成群性が強い=回遊性が強い」という法則にあてはまっているのでこちらにも注目したい。



◇池原のフロリダバスの例
 じつは私がトップで釣っている秋の池原のフロリダバスというのも、この社会性を利用した釣り方が絡んでいる。過去にさんざん各誌に書いたことだが、今回こそ理解してもらえそうなので、少し紹介したい。

●集団回遊を行う
 フロリダバスは、これまでのテレメトリーによる追跡研究からノーザンラージマウスバスよりも一日当たりの移動距離が長いことがわかった。私は、この点に注目してフロリダバスが小魚をメインに追っているのではないかと推測した。胃内容物の調査から、小魚の割合がエビに勝るのはその年の9月末〜11月であることをつきとめ、心拍数が著しく上昇する時間が早朝であること、その索餌形態が『不連続な統制の緩い群れ』であることに注目した。
 この『群れ』は普段の昼間はさらに理解不能な回遊(あまり捕食なし)を見せるが、早朝だけは岸に沿って小ブナなどのコイ科の稚魚を捕食して水面直下を回遊していた。驚くことに、その群れを形成する個体のサイズがそろっていなかった。はじめに40cm程のバスの群れ、次に65〜70オーバーの群れ、続いて50cmクラス、ふたたび40cmクラス…ダラダラ続いて最後に20〜35cm程の小さいバスが岬、ワンドなどの要所要所に残って、食べたりないのか索餌を続ける、という形に見えた。1997〜1999年と観察を続けていたので、どうやらそれが群れの社会性というパターンなのではないかと仮説を立てた。

●わざと左に配置された後輩
 この不連続でダラダラと続く群れにもやはりチャレンジャーがいる。通常の考え方だと最も大きなサイズの70オーバーあたりのバスがチャレンジャーとなるが、この場合サイズがケタ違いに大きい。どうやら用心深いことは間違いなかったので、初めに来る40cmクラスに疑いを持った。1997〜98年と、このバスが先に食って来たため、他の魚が釣れなかったのだ。そこで、小型のライブウェルを持ち込み、最初の魚をキープしたり、初めにバスが回ってくる岸の左側に後輩を立たせ、先に40cmで遊んでもらうことにした。これらの努力(すべて他人の努力)の甲斐あって、数々のビッグバスを手にさせてもらったのだ。あのとき左側に立たされた覚えのある後輩様、ごめんなさい。私の道楽のための犠牲でした。