2016年12月27日火曜日

現場の空論1ー動く、動かない(2002年6月)

 「ウケたら、続けよう」ワタクシの育ての親である萱間編集長の原稿依頼でした。そんな『現場の空論』は計三回とボツ一回。ウケなかったと(爆)。
 月に14本もの雑誌に連載をしていた頃、最も思い入れがあったのが、この短命に終わった現場の空論です。裏付けとかの面倒な文献をさわることもなく、これまでの経験をもとに自由に推論を書いていく。そんな連載でした。他の連載は釣り、アウトドア、車、音楽、タウン誌、ゴーストライティング、とどれもこれもある水準のご要望に応えなければならないものばかり。これを発表できることが、心の癒しでした。


現場の空論1
※Sport & Fishing NEWS 2002年の初校原稿です。

text by小川健太郎
〜好き勝手書くのでアテにしないでね

イカの眼はこうなっているのではないか、の巻き

リード
答えを探す過程で必ず通らなければならない「仮説」。釣りというのはこの仮説を実証させることの連続であり、この探究心への深い情熱こそ、ハマってしまう諸悪の根源なのだ。わかったところでなんの人生の役に立つわけではない、数々の仮説。当ページは、この無駄な知識に人生をかける男の物語である。

●餌木ニ思フ
 ふと、餌木ってなんで布巻きなんでしょうね、ってことを考えていると、日常の我々の生活にも、じつはヒントが隠されていたりする。通常、イカは強い反射を嫌うので、それを弱めるために布巻きにする、とか、抱き心地の向上などと言われているが、ホントにこんな理由で布巻きにするの?と疑問が多かった。抱き心地に至ってはもうハリに触れているじゃねえか、ってことで、釣り人に重要なキーとも思えない。
 そんなとき、はじめて餌木のチカラが見えたのは、本誌「10倍釣れる〜」でお馴染みの弓削氏とのはじめての釣行の際であった。この日は同行者の1パイしか釣れなかったし、それ以前にたくさん釣った日もあるが、なぜ布巻きかが見える瞬間などなかったのである。この釣行の際、弓削氏は同行者にこう教えていたのである。「ハイ、ピタッと停める」これを聞いた時、餌木が布巻きでなければならない理由が突然見えてきた。もンのすごいヒントが隠されていたのだ。

●石コロ帽
 『ドラえもん』の漫画に出てくる「石コロ帽」というアイテムをご存知だろうか。それを被ると路傍の石のような存在と化し、誰にも気付かれなくなる。このアイテムを出す時ドラえもんは、「人間には盲点があり、この帽子を被るとその盲点に入っちゃうんだよ」というような一見解るようでわからない説明を加えていた、と記憶している。僕が思うに、この説明の『盲点』というのは、「見えていて気にならないところ」であろうと考える。つまり、そのへんにあるものは気にならない、という部分がこの話のミソであった。しかし、なぜ気にならないのだろうか。いわれてみればその辺の石は注意して見ないと忘れてしまう。小さければ小さいほどその感は強くなるが、今回重要なのは大きさではなく「石コロは動かないこと」これに尽きる。なにしろジッとしていれば人間にだって気付かないことも多いわけだ。これを今回『盲点』として話を進めて行きたい。

●動く、動かない
 この盲点が発生するのはとりわけマットなものが多い。なぜなら、クリアなものや反射するものは、こちらが動くと向こうも動くのである。ガラスのコップが置いてあれば眼には入ってしまうのだ。しかし、ガラスが動いてしまうと、捕まえるのも困難になるほど距離をつかみにくい。これはシルエットをまとわないからであろう。逆に布や木、石などの反射、透過をしないものはどうなのか。こいつらは自発的に動くと見えてしまうが、動かない限りは、じつに注意を注ぎにくいヤツラなのである。
 つまり、餌木を動かしている間はイカには餌木が見えている、ということで追わせる。次に停めた瞬間に見えなくなることで、イカには急に見えなくなり、生物特有の「ないものほど欲しくなる」欲求をくすぐっているのではないかと思いはじめたのだ。

●パズルの最後のピース
 思ったらすぐに試す。これが現場型妄想ヤロウの真骨頂である。様々な釣り場で見えているイカのみに絞って実験を繰り返すことにした。確かに停止させるとイカは餌木がわからないのか、当てずっぽうな攻撃ばかりするようになった。これがいわゆる「横抱き」の多発である。個人的には釣果に結び付けたいわけではないので、このイカの眼を騙して楽しんでいたわけだが、ある日、これを見ていたガンクラフトの平岩氏が、「前方へ方向性を与えると尻のフックに抱きますよ」と教えてくれた。これがこのイカの視覚問題というパズルの、最後のピースだったのである。
 イカはマットなものが停まるとソイツの方向性が解らなくなる。眼でも見えにくい。この状態で闇雲に横抱きしてくるわけだが、もしここで餌木にカーブフォールなりの方向性を前方へ与えると、見えないはずのものが急に残像のように(イメージね)見えてくる。このわずかな差異をきっかけに、しっかりと抱きにかかるのではないだろうか。
 こう考えていくと、たしかにこれは布巻きでマットにしたくなる話ではないだろうか。


オマケ
日本の面白い釣り
ホタル釣り

 6月になると、近郊にはわんさかとホタルが出てくる。誰も気付かないだけかもしれないが、そんじょそこいらの川にもホタルはいる。秋には秋のホタルもいるんだよ…ってそんな話ではなかった。
 わたしはこのホタルを釣るための仕掛けをいつも車に隠している。それは昔ペットボトルのお茶のおまけで付いていた、グリーンの小型ダイオードで、ボタン電池で光らせるタイプのもの。指で配線を押すと点灯、離すと消えてしまうというシロモノだが、これをいっぱい持っている。コレクターではなく、すべてはホタル釣りのために、である。
 無脊椎動物はグリーン〜シアン系の色の光に色気を感じるらしく、ホタルイカも上方に向かってはこんな色で発光し、求愛したりする。これは紫外線が判別できることと関係があるのかもしれないが、今回はその話は置いておこう。このグリーンのライトはそんなホタル達の信号の光より、微妙に強い光を持っているのだ。これは有利ですよ。
 何しろこのグリーンのライトをホタルにあわせてチーッカ、チーッカ、と刻むだけでホタルは寄ってくるのだ。当然向こうは命を張っているので、ニセモノと気付き次第、それはもう超高速で逃げていってしまう。しかしホタルの言語がわかればもうお手のもの。ヤツラは近づいてくると点滅をやめて点灯しだす。これが彼ら独特の1対1の合図となるのだが、このときあえてライトを消してしまう。するとどうだろう、今度は光源を探しはじめ、非常に近くまで寄ってくる。これを手でフワリと捕まえてやる、という寸法。
 おじいちゃんから子供まで楽しめるので、シーズンが始まると魚そっちのけで皆さんこれに没頭している。ボランティアみたいなもんにもなる可能性を秘めた、近未来型の新しい釣りといえよう(嘘)。