2016年12月28日水曜日

現場の空論2トゲを嫌う?(2002年7月)

※Sport & Fishing NEWS 2002年の初校原稿です。
現場の空論
第2回

text by小川健太郎
〜好き勝手書くのでアテにしないでね

魚はトゲを嫌うのではないか、の巻き

リード
答えを探す過程で必ず通らなければならない「仮説」。釣りというのはこの仮説を実証させることの連続であり、この探究心への深い情熱こそ、ハマってしまう諸悪の根源なのだ。わかったところでなんの人生の役に立つわけではない、数々の仮説。当ページは、この無駄な知識に人生をかける男の物語である。

●ブルーギルは食われない?
 よく、『バスのエサ釣りにはブルーギルを使わない』という話を聞く。これはブルーギルのとがった背ビレ(棘条)がバスの捕食を妨げるのだそうだ。これによってウグイなどが良質のエサとされているのだが、確かに小さいバスを釣るのには、ブルーギルのトゲが仇になることが多い。しかしデカいバスはブルーギルのトゲに躊躇することなく襲っているように見える。
 またハリセンボンのように全身トゲで身を守っているものもいるが、GTほどの大きな魚になればこれまた躊躇なく襲ってしまう。ほかにはニザダイのようにトゲを備えて敵を攻撃するものもいる。はたしてトゲは魚にとって、どのような意味を持っているのだろう。これが今回のお題である。

●ハリの秘密
 プラグのフックは銀が多く、ワームのフックは黒が多い。これはなんでこうなったんやろか。私はこんな、ちょっとした疑問があって、ブラックバスでいろいろな実験をしたことがある。糸に結んだハリだけを魚に見せる実験だ。
 銀の場合、動きを加えるとキラキラして、近い距離まで寄ってくる魚も見られたが、だいたいの個体がハリから距離を置いて様子を見ていた。また、銀のハリを動かさないときは、魚が動けば反射光も動くことで、妙にトガっているのが認識されてしまうのか姿を見て逃げる個体が多かった。逆に黒の場合、動きが加わると形が見えてしまうのか、逃げる魚が多くなったが、これにアタックする個体も稀に見られた。また、黒が停まっているときは先端が認識しにくいのか、素通りするものがほとんどであった。
 この実験から、ハリの秘密には近付けた気がしたが、トゲに対する行動ははっきり見られなかったが。ただ、銀を停めたときの魚の行動だけは、水槽でも自然条件でもあきらかにトゲを嫌っている行動のように見えた。

●トンレサップ湖畔にて
 最近、私は乾季のカンボジアのトンレサップ湖へ釣りに出かけた。このとき、船頭のニイちゃんに、こんな話を聞いたのだ。
「ここいら一帯にびっしり生えてるこの低木触ったかい?木のすべてが、すげえトゲトゲしてるだろ。これはここの湖からメコン川を下った下流にあたる、ヴェトナムにしか生えてなかった木なんだ。
 雨季になると、トンレサップ湖のここら辺は全部水で埋まってしまって、ほんとなら魚のスポーニングエリアになるんだけどヨ、この木がこんなにびっしり生えてから魚が卵を産まなくなった。トゲの木があるから魚が入って来なくなったんだ。このトゲに刺されたら魚が死ぬんだ。
 この木は数年前ヴェトナムの飛行機が種を撒いていったんだ。なぜかっていったら、このトンレサップ湖にいる魚が湖から離れたら、下流にあるヴェトナムの漁獲量は上がるだろ?おかげでこっちはもうほとんど魚が捕れなくなってしまったよ。」
 この話を聞いたとき、わたしはカンボジア人の反ヴェトナム感情を知っていたので、話の本筋は聞き流していたのだが、このトゲに関する情報だけは聞き逃さなかった。すくなくともカンボジアの魚は大小問わずトゲを嫌うのだそうだ。

●トゲの空論
 魚にはどうやら硬いトゲを嫌う性質はありそうである。ただ、私が見てきたなかでは、口に入るものに関しては『大きすぎなければ気にならない』という傾向が見られた。これに対して、身体に触れるものに関しては『大小問わずイヤ』なのだと考えられる。もしかしたら、魚にとって『スレ掛かり』なんてのはもう、背筋が凍り付くほどイヤな世界なのかもしれない…。