2017年2月10日金曜日

連載の自己紹介と魚の感覚/(2002年3月LF紙)

この原稿はルアーフライニュースで2002年3月執筆、とありました。
1クール目が魚の感覚に近づくための講座として週刊で全5回。人気だったようで帰国後2クール目も二回分あり、計7回は連載内の自筆分となります。それ以外は実釣や商品紹介がメインなので省略しようと思います。御多分に洩れず、写真はフィルム時代のため省略です。



オガケンの不思議なルアーBOX

リード
 釣りをするうえで、どうしても気になってしまう魚の世界。ルアーは魚にどのように見えているのだろうか、なぜルアーで魚が釣れるのかをテーマに小川健太郎がお送りしていきます。

◇第一回・基本編
 はじめまして。SIN-ZOベイトの小川健太郎です。僕は現在カンボジアにいます。このあたりはルアーフィッシング未開の地でもあり、面白いゲームフィッシュがいないトコロかもしれません。僕がなぜこの地を選んだかというと、あたらしい魚との出会い、未知の水域へ竿を出すときのワクワク感を取り戻すためです。同時に、他人との競争場と化した日本の釣り場、釣り業界から、なにも魅力を感じなくなった自分を癒すためでもあります。僕個人の『釣り』という趣味は、『魚の感覚に近づく』ことを楽しむ遊び。魚はルアーをどう見ているのか、温度をどう感じているのか、おいしくゴハンを食べるのか、命の危険にどうおびえているのか。この魚の感覚が理解できる瞬間があるとするなら、それは釣りを通してしか味わうことができないと思うのです。無事帰国できれば、これから連載でこの『魚の感覚』に少しづつ迫ってみたいと考えていますのでヨロシクお願いします。

●バイオテレメトリー
 僕が魚の研究をするときに、バイオテレメトリーという言葉が出てきます。これは「生物遠隔測定」と言って、いわゆる発信機や測器を魚の体内や体外に取り付けて、心拍数や遊泳速度、水深、水温、加速度などいろんなことを測ってしまう手法です。テレビ番組ではよく、鯨やクマに取り付けて、衛星を使って追跡調査なんかしてますよね。僕らが行っているのはアレの一種で、ペンギンに取り付けるような小さいタイプの発信機(または測器)を使っているんです。
 近年、テクノロジーの発達でいろんなことがわかるようになってきました。この中にはもちろん釣りに使える情報満載です。例えばマダイの活動時間はこの時期何時ごろなのか、とか、スモールマウスバスは回遊しているのか(いづれお伝えします)、とか…。考えれば考えるほど楽しい話題が満載です。実験方法次第では、魚がルアーを追う時とエサを追う時の心拍数の違いなんかも、簡単にわかってしまいますよね(これがSIN-ZOベイトのコンセプトのひとつに)。
 このような実験を交えながらお伝えしていきたいと思っているので、この『バイオテレメトリー』という言葉、おぼえておいて下さいネ。

●五感
 今回は基本の部分ということで、人間と魚の違いについて述べてみたいと思います。魚は人間とどこまで違うのか、またどこを同じように考えることができるのか。これがわかれば、とりあえず魚の世界に一歩近づくことができるに違いないわけです。
 まず、人間との五感の違いを考えてみましょう。われわれ人間は触覚、聴覚、視覚、味覚、嗅覚という5つの感覚をもっています。釣りの時、この人間の感覚のまま魚に置き換えて推測するとやはり勝手が違ってきます。魚は「水の中にいるから」です。では、水という物質がこれらの感覚をどのように変えてしまうのでしょうか。
 例えばニオイと味は化学物質の伝達という点で共通しています。人間の場合、『空気を伝わる化学物質=ニオイ』、『唾液などの水分を介して伝わる化学物質=味』となってきます。しかしこれら化学物質は、水の中では同じように溶けてしまい、ニオイも味も、その違いはほとんどなくなってしまうと考えられます。これによって味覚と嗅覚はほぼ同じような器官で判別されてしまうことになるでしょう。
 また、触覚と聴覚にも同じような共通点が見出せます。それはどちらの感覚も水の中では『波』だということです。これによってこの『波』を感じる器官に関しては音も触る感覚も共通の器官で感じることができそうですね。そんな器官が「側線(魚の側面に付いている点線状の器官)」というわけです。この器官は一つ一つが小さな袋になっていて、その中に生えた毛で波を感じとることができます。

●ヒトの五感は魚の三感?
 これまで述べたことを考えてみると、魚は水の存在によって五感に相当するものが3つほどに少なくまとめられているように思えませんか。そのかわり水による音の伝達速度、ニオイの伝達能力などが高いため、人間の思うよりも高感度になっているようです。
 以下に3つの感覚を示しますので、人間の感覚と置き換えてイメージしていただきたい。
音、動き(聴覚・触覚)
形、色(視覚)
味、匂い(嗅覚・味覚)
 水の中というだけでヒトの五感は魚の三感。人間と魚はここまで大きく感覚が変わってしまうのです。




  プロフィール
小川健太郎/25才。住所不定・自由職(無職)の車上生活者。水産学科で魚類のバイオテレメトリー(遠隔測定)を専攻。365日連続釣行、色理論、池原ダムでのヤーガラ、ビッグバドなど、ごく一部のマニアの間だけで知られながらひっそり生かされている。SIN-ZOベイト他を開発。