2017年1月9日月曜日

ウィードの話(2001年10月BW誌)

 2001年の原稿です。最初は琵琶湖ウィード図鑑としての原稿でしたが、なぜか連載テイストになっていて、アカデミックレイクというタイトル付けられてました。当時は水草の情報が少なくて、大学に戻って資料を寄せることができる人に頼るしかなかったのです。
 海外に行った際もウィードの特性を利用してその場所の水流や水温を割り出すのに、当時の知識は活かされています。なぜなら、誰かが逃した魚や水のせいか、世界中の温帯の水中の植生は結構同じような構成だからです。


バスワールド12月号原稿 小川健太郎

琵琶湖とウィード(アカデミックレイク 1)

プロフィール
小川健太郎:水産学科で漁場学を学ぶ。株式会社フィッシュマン所属。365日連続釣行を2クール、色理論、池原ダムでのトップで60〜70アップを狙って釣る男として、ごく一部のマニアの間だけでひっそりと知られる。SIN-ZOベイトを開発。通称オガケン。

 ウイードの役割を簡単に説明するなら、魚にとってウイードは酸素の提供、水質、温度変化の緩衝をしてくれる存在である。小さな魚やエビは産卵から成長までこれら植物を利用し、バスなどの肉食魚もウイードに依存することによって棲みやすい環境を得ることができる。今回は琵琶湖に生えるウイードを中心にその狙い方のコツを考えてみよう。

◇ウイードが魚を教えてくれる
 ウイード。我々釣り人は漠然と水の中の水草をこう呼んでいる。そして、これらの中にはいくつもの種類があるにもかかわらず、その生態の違いに目を向ける人は少ない。「●●のウイードエリアで釣れた」という情報が漠然と入っても、何という種類の水草が生えているかまで気にする人はほとんどイナイ。しかし、実はウイードにはその種類に応じた育成環境というものがある。さらに、根を張る植物には移動手段がないために、そこから逃げない。ということは、「ココはいつも冷たい水が湧いている」などのように、じつは普遍的なピンスポット情報をそこに提示してくれている、というありがたい存在なのだ。これはもったいないことではないだろうか。あなたのルアーが拾ってきたその水草には、実は釣りに役立つ情報が詰まっているのかもしれない。

◎柔らかいウイード、硬いウイード
 以前、ウイードを調べていて、琵琶湖のプロガイドをされている藤木プロに話を聞いたことがある。話の内容は、「度重なる浚渫の濁りの影響で、pHが急変したり、日光が遮断されて、釣りやすい硬いウイード(カナダモ、エビモなど)が生長する前に、伸長効率が早い柔らかいウイード(フサモ、カボンバなど)が伸長してしまう。柔らかいやつは硬いウイードに被さってしまって、ラインやルアーに絡みやすい。このため例年釣れてた釣り場が釣りにくくなる。特にpHの急変や濁りに対してよく生えてくるのがトロロといわれるアオミドロで、これがあると特に魚がつきにくく、ルアーに絡むので釣りにならない。」といった内容であった。このとき釣れるエリアは浚渫の濁りを受けにくいエリアとなった。釣りをしながらウイードを見ているとこういう浚渫などのおよぼす自然の変化が見えてくるのだ。
◎小さな違いで釣果が変わる
 ウイードは、その種類の特徴を知っていることでその場の細かい情況を把握することができる。たとえば、硬くて釣りやすいカナダモの仲間で、よく見られるクロモ、コカナダモ、オオカナダモという種類があるが、一見見た目が同じこの3種の違いがわかってしまうと冬や夏、重要な手がかりをつかめることがある。例えばコカナダモは低水温に適しているため、夏でも低い温度のエリアによく生えている。つまりその付近に湧水や伏流水の可能性などを見い出すことができるのだ。そしてオオカナダモとコカナダモは常緑。つまりこれらのウイードを夏に見つけたエリアでは冬もウイードとして魚をストックしている可能性がある、という読みができてしまうのだ。
◎ウイードの密生を見つける
 単純に釣れたウイードを見てその種類がわかったところで、適水温などを決めつけるのは大変危険である。たまたま掛かったコカナダモを見て「ココは湧水が…」と粘っても、実際水の底にはほんの少しパラパラと生えているだけで湧水などなかったりするのだ。ある程度ビッシリ生えていないようではそこの環境を推測することはできない。どのようなことを手がかりに密生具合を突き止めればよいのだろう。茎のあるウイードならだいたいの想像ができるのでぜひ頭に入れておくとよいと思う。まず、ルアーがただ拾った浮遊ウイードは考えないほうがよい。根掛かりから上がってきたときに付いているものが信用できるウイードとなる。つぎに、このウイードの茎を見る。茎につく葉のパターンや茎の太さで密生しているのかどうかがわかる。日光や土地の環境もわかる場合があるので覚えておくと便利かもしれない。
●葉の輪生するタームが長い(葉があまりついていない):葉が少なく貧弱に見えるのはやはり密生の可能性が少ない。しかし根のほうが葉が少なく、先端にいくに従ってびっしり生えているものは、背の高い競争群生の場合があり、さらに茎が太い場合はこの可能性が高く、魚が付いていることが期待できる。
●葉の輪生するタームが短い(葉が多くついている):これは一見して元気なウイードだとわかる。葉が多いのは日光を受ける競争をしている証拠。密生している可能性が比較的高く釣果も期待できる。
●茎が太い:土地が豊かな場合と、水の流れの強い場合がある。流れがない場所では湧水の可能性も考えられる。要チェック。
●茎が細い:折れそうな柔らかいものはかなり期待できない。硬いものなら葉の多さを見よう。

◇ウイードは資料が少ない
 さて、役にたつなら水草のミニ図鑑でも買いに行こう、なんて街の書店に出てみると、まず図鑑がないことに気付く。さらに大学の図書館などの大きな書庫にも、資料がほとんどない。これはどうしたものか。じつは水中の植物というのは野山の草木と違って、見る楽しみというレジャーになり得ないうえに学術的にも評価が小さいのだ。これは地球の環境にとってどのくらい恐ろしいことか、釣り人ならわかるだろう。いや、釣り人にしかわからないことかもしれないが、政府としては水鳥のすみかとなるアシを守ることに条約は設けても、魚のすみかとなる水草には一文たりとお金もかけられない、ということなのだ(言い過ぎ?)。
 現実の話、世界中の水面下の植生はどこに行ってもほぼ同じ様相を呈している。異常事態ということが分かっていただけるだろうか。大げさに例えるなら、どこの国へいっても森には松と杉しか生えてない、というような話である。これはさまざまな原因で、環境変化に強い様々な植物が持ち込まれ、帰化していったためだ。カナダモのように外国から持ち込まれた種類もいれば、日本やユーラシアから持ち出された植物もいる。そして環境の変化に適応する能力のあるものや、早く大きく育ってしまい、他の植物に被いかぶさって日光を遮断するような強い植物が、ほんの2年ほどのタームでより優位な地位を築いていくのである。そこに生えているはずの、学者の目にすら見えない植物。ルアーに引っかかってくるという簡単な事象だけで、『釣り人はこういうものに目を向けることができる唯一の存在である』ということに、より多くの人に気付いてもらいたい。

◇今後の琵琶湖の水草
 私の読みでは浚渫による水質変化、濁りによる日光の遮断、水位の増減、温暖化と、今後の琵琶湖は大きく変化していくと考える。これに伴い、葉が柔らかく、常緑なうえに環境の変化に強いフサモの仲間がどんどん繁茂していくと思われる。このウイードの特徴は根の方にいくに従って葉が少なくなり、ここがスカスカのシェードになって魚の入りやすい隠れ場となる。また、伏流水や湧水は温度を一定に保つ力があり、夏に低水温となる場所ではヒロハノエビモやコカナダモの丈夫なものが、冬に高水温の場所ではオオカナダモがそれぞれ繁茂しやすい。今後有力なエリアとして、個人的に注目している。また、マツモという根を持たない浮遊型の植物は水質変化に強いのだが、拍出酸素量が特に多い。サイズや硬さなどが生育環境によって著しく変化するので、今のうちにこの変化と釣果の関係を覚えれば、将来の富栄養貧酸素化した琵琶湖で大きく釣果に貢献するのではないかと考えている。



クロモ、コカナダモ、オオカナダモの見分け方
一見似ているようでじつは違う生態、という覚えて便利なこの三兄弟、簡単な見分け方がある。まずコカナダモ。こちらは3輪生と言って、茎から3枚づつの葉が出ている。葉は反り返る場合が多い。低水温や湧水へ直結していることが多いから見逃せない。次にクロモ。これは葉の端が大きくギザギザしている。夏場は普通に見られるウイードだ。これらの条件に当てはまらなければオオカナダモだ。これが生えている場所は冬の水温も一定の場合が多い。



今回登場のウイード(写真はフィルムカメラにより撮影していたため割愛/種類気になる人は画像検索してください)
クロモ<Hydrilla verticillata>トチカガミ科
コカナダモ<Elodea nuttallii>トチカガミ科
オオカナダモ<Egeria densa>トチカガミ科
ホザキノフサモ<Myriophyllum spicatum>アリノトウグサ科
マツモ<Ceratophyllum demersum>マツモ科
ヒロハノエビモ<potamogeton perfoliatus>ヒルムシロ科