2017年1月18日水曜日

群れの話(2002年2月BW誌)

群れの話です。2月に書いて2月末に4月号として出てます。ややこしいですが(笑)。
この手の話は何度も書いてますが、イラストは当時の自作です。これをイラストレーターさんに描き直してもらって、本になる、という叩き台。したがって、この先他の記事を投稿する際に何度も見かけると思います。写真はまだフィルムカメラの時代なので、面倒すぎて掲載は控えてます。
話としては、小難しい専門用語を解説するような、突っ込んだ書き方にしてみよう、ということになったため、こうしてみました。すると、どうも読者のテイストに合わないという苦情(笑)が入って、次回以降がスタイルごと書き直しになり、いきなりキャッチーな質問コーナーに急遽切り替わるという黒歴史があります。当時の70オーバーの狙い方のキモが書いてあったのに、当時はトーナメント全盛でビッグベイトも使う人少なかったし、ビッグワンオンリーに興味ある人もあまりいなかったのです。人口的には今と真逆ですね。

(以下↓原文)



Academic LAKE Vol.5

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◎群れの法則

 スクールバス。われわれアングラーがよく耳にする言葉だが、これは群れているバスのことを指している。しかし、魚の群れをすべてスクールと言うわけではない。ましてやその群れの形成に関して、由来が全く異なるものであれば釣果に響くことにもなってしまう。
 前回まででもちょっと恐ろしい内容であったが、さして苦情が出なかったので、今回も挑戦。いままでタブーのように語られることのなかったバスの集団社会へのアプローチを試みた。『群れ』に関する基本的な知識や、群れを利用した釣法までを紹介していきたいと思う。




◇群れの形成

●群れの形態
 魚の群れはその密度、方向性から4段階に分けられる(C.M.Jr.Breder/1965)。


★solitary:単体でいる魚、佇む魚。
★aggregation:漠然とした魚群。
★school:整然とした魚群、同サイズによる一定間隔で形成、同方向を同速度で進行など、統一された指向性を持つ。
★pod:密集。体が触れるほどに近接したものを指す場合が多い。
 バスの場合、上記のタイプのなかでもpod以外のすべてがあり得る。スクールバスといえるのはほとんどの場合幼魚期〜若魚期の同サイズで群れている状態だ。


●群れの定義
 動物の群れとは生物学的に『社会性のある集まり』と定義されている。こんなことを書いても面白く読んではもらえないとわかってはいるが、あえて読んでいただきたい。実は釣り、ことルアーに関しては、この定義こそがとても重要な情報なのである。事実、これを知っている人にしか釣れない魚がいるのだ。
 バスの群れは様々な要因で形成される。ひとつは一生、あるいはある時期だけ集団で生活する習性や親が子を守る期間内の集団などの必然性に由来する魚群。もひとつは一定のエリアに産卵巣を形成するために集まる造巣性、水温やウイード、シェードなどの適合環境への誘引による集団、走流性などの性質による集団、小魚を捕食するための不連続に形成される集団などの偶発的要因による魚群。
 A.E.Parr(1927年)の古い文献によれば、前者のような生来の魚群を『恒常的魚群』と呼び、いかなる環境条件の中でも安定していると定義付けている。また後者の魚群を『偶発的魚群』とし、環境要因の変化によって集合、離散が容易に起きうるとしている。これはもちろん水質悪化や日照条件の変化などもふくまれるが、釣り人という存在に起因するストレスも考えられる。つまり後者の場合、ひょっとすればアングラーの腕次第で群れを離散させてしまうことも考えられるのだ。
 恐ろしいことに、これらの集団は魚のことを知らない人から見ればどれも同じような群れに見えるかもしれない。しかしながら群れの原因をひも解いてみれば釣れる魚、釣れない魚もあっさり判明し、群れの習性を利用すれば、釣れない魚を釣るというオイシイことも可能になってくると考えられる。

●社会の形成
 群れには社会性があると述べたが、この話をバスの集団索餌という行動に絞って考えてみよう。バスのような生きたエサを追う魚は、この「社会性」によって群れの存続を制御していると考えられる。例えば、エビというエサがメインだった群れが季節変化や水質変化、水温変化などにより激減したとすれば、おのずとその群れは絶滅の危機に瀕してしまう。エビを食う群れはエビ以外の餌に簡単にはシフトできないのである。なぜか。現代の日本人に『食用イモ虫を食え』と言っていることと同じなのだ。これこそが群れの社会性である。
 「食べて無害のイモ虫を人間という動物が食べる」この行為は非常に簡単なはずだ。しかし、その文化も過去の事例もなければ、このイモ虫に手出しをする人はごく少数に限られてしまう。この「手出しする人」を私は『チャレンジャー』という名称で呼んでいる。チャレンジャーは、死ぬかも知れないというリスクを負いつつも、初めに食する好奇心を持っているために常に他人の支持を得ることになる。いわゆる『ファッションリーダー』と呼ばれる存在だ。
 話をバスに戻すと、バスは新しいエサを食べてみなければ生きていけない。このために、群れの中には自然に『チャレンジャー』があらわれる。初めて食う餌を、メインのベイトに据えることができるのか、やはり大衆は引っ込み思案気味に付いていくことになる。こうして数カ月のあいだに、チャレンジャーは、自然と群れを率いるリーダー格という存在になっている。こうしてバスの社会が形成されていくのだ。

●チャレンジャーの引き起こす現象
 ルアーフィッシングにおいて、チャレンジャーがバスの群れに引き起こす現象を述べてみよう。
★リリースしたら釣れなくなった
 見えバスがたくさんいて、一匹釣るときは大勢が反応したのに、その魚をリリースしたら全員が消えた、もしくは釣れなくなることが多い。この場合釣った魚がチャレンジャーであった可能性が高い。人一倍(魚一倍!?)注目を浴びる魚なので、傷付いて帰ったり、遠くへ逃げたりしたことで、他の魚も警戒しはじめるのだ。また、傷付いた個体は群れへの信号として、警戒音や恐怖物質となるアミノ酸を出すことが非常に多い。これも群れの存続に関わる機能で、淡水魚の場合、傷付いた魚には近寄らなくなったりする。
★大きい魚から釣れる
 連発するときに、大きい魚から釣れてくることがある。これは好奇心の強い個体から順に釣れていることが考えられる。2尾めあたりから気付けば、ライブウェルなどを利用してリリースを止めることで連発を持続しやすくできる。
★釣った魚に付いてくる
 スモールマウスバスやフロリダバスなどの回遊色の強い魚に見られる現象だが、釣れている魚にべったりと付いてくる魚がいる。付いてくる個体が極端に大きい場合はエサとして見ているようだが、同サイズの場合はチャレンジャーに抜け駆けされた準チャレンジャーである場合(または逆)が多い。一般大衆はチャレンジャーがリリースで帰って来なければ次のキャストで釣れる。また、話は変わるがこれらの種類は「成群性が強い=回遊性が強い」という法則にあてはまっているのでこちらにも注目したい。



◇池原のフロリダバスの例
 じつは私がトップで釣っている秋の池原のフロリダバスというのも、この社会性を利用した釣り方が絡んでいる。過去にさんざん各誌に書いたことだが、今回こそ理解してもらえそうなので、少し紹介したい。

●集団回遊を行う
 フロリダバスは、これまでのテレメトリーによる追跡研究からノーザンラージマウスバスよりも一日当たりの移動距離が長いことがわかった。私は、この点に注目してフロリダバスが小魚をメインに追っているのではないかと推測した。胃内容物の調査から、小魚の割合がエビに勝るのはその年の9月末〜11月であることをつきとめ、心拍数が著しく上昇する時間が早朝であること、その索餌形態が『不連続な統制の緩い群れ』であることに注目した。
 この『群れ』は普段の昼間はさらに理解不能な回遊(あまり捕食なし)を見せるが、早朝だけは岸に沿って小ブナなどのコイ科の稚魚を捕食して水面直下を回遊していた。驚くことに、その群れを形成する個体のサイズがそろっていなかった。はじめに40cm程のバスの群れ、次に65〜70オーバーの群れ、続いて50cmクラス、ふたたび40cmクラス…ダラダラ続いて最後に20〜35cm程の小さいバスが岬、ワンドなどの要所要所に残って、食べたりないのか索餌を続ける、という形に見えた。1997〜1999年と観察を続けていたので、どうやらそれが群れの社会性というパターンなのではないかと仮説を立てた。

●わざと左に配置された後輩
 この不連続でダラダラと続く群れにもやはりチャレンジャーがいる。通常の考え方だと最も大きなサイズの70オーバーあたりのバスがチャレンジャーとなるが、この場合サイズがケタ違いに大きい。どうやら用心深いことは間違いなかったので、初めに来る40~50cmクラスに疑いを持った。1997〜98年と、このバスが先に食って来たため、他の魚が釣れなかったのだ。そこで、小型のライブウェルを持ち込み、最初の魚をキープしたり、初めにバスが回ってくる岸の左側に後輩を立たせ、先に40cm、50cmで遊んでもらうことにした。これらの努力(すべて他人の努力)の甲斐あって、数々のビッグバスを手にさせてもらったのだ。あのとき左側に立たされた覚えのある後輩様、ごめんなさい。私の道楽のための犠牲でした。

小川健太郎/25才。住所不定・自由職(無職)の車上生活者。現在冬につき、寒さの犠牲になるかも知れないので要注目。水産学科で魚類のバイオテレメトリー(遠隔測定)を専攻。365日連続釣行2クールを含む、総計3200日の釣行を就職までの11年でこなした「釣り場型ひきこもり」。色理論、池原ダムでのヤーガラ、ビッグバドなど、ごく一部のマニアの間だけで知られながら、各社のお情けでひっそり街路樹のように生かされている。SIN-ZOベイト、TAN-NORジグを開発。