2017年1月16日月曜日

速度、アプローチの法則(2002年1月BW誌)

ラストにすごいプロフィールを発見(笑)。アウト→イン、イン→アウトの話とリトリーブについてが書かれてます。
この記事は95年春ごろに骨子を作ったリトリーブのスピード展開論を、なるべく伝わりやすく考えたものだったと記憶しています。肉付けには当時自分の母校にしかなかった回流水槽の使用許可をいただいて、懸命に測定しました。あの情熱は今どこへ…。結果、恐ろしいことが判明し、THE KNIFEという極めて使いにくい(笑)ルアーが生まれたのです。
 思うに、釣りの研究所とか施設なんてものはどんなにすごいものがあっても、人間の目からものを考えていては一生かかっても魚の視点にはたどり着けないのです。泳いで潜って測って考えて、帰ってからその数字を再現できたことで、答えに少し近づけた、そんな程度です。この原稿の示すところは、偉そうに書いてますが、その時の情熱程度のものなのかもしれませんね。

(以下↓原稿校正前のまま)



Academic LAKE Vol.4

◆総合的な知識編その2
 実際フィールドに立っていろいろ考えることほど、釣りに役に立つことはない。しかし、魚についての基礎的な知識や総合的な知識を身につけておくと、フィールド上で物事を考えるのにも非常に効率がよい。
 今回は前回の流れを受け、ルアーそのものに命を吹き込むときに私が考えていることを紹介したい。

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◎リトリーブと捕食の関係
 ルアーのスピードは、このリトリーブスピードでいいのだろうか、と不安になったことは誰しもあると思う。果たして、ルアーがよく泳ぐ速度が正解なのだろうか。
 また、ルアーを巻いてくるとき、魚はどんなきっかけで、どんなタイミングでルアーを襲うのだろうか。巻いてきたときに追い掛けてきて食う個体と、一瞬の乱れ(ポーズも含む)や着水直後のワンアクションに来る個体。どちらの魚が大きいのだろうか。
 例えば寒い時期にはバスでも盛んなジギング。この単純なルアー、巻いて上昇しているときに食うのか、テンションが緩み、落ちてきたときに食うのか。ルアーマンの多くが勘違いしている部分だ。

 今回はこれらの現象について考えてみる。





◇ルアースピードの法則
 ルアーはそのひとつひとつに、本来泳ぎやすい速度というものを持っている。これは人間が設定したもので、あくまでルアーとして動く範囲のレギュラースピードだ。しかし、このスピードに魚が追ってくることはあっても最終的なバイトに持ち込める瞬間や大型の魚が食う瞬間というのは「レギュラーがイレギュラーに変わる瞬間」が圧倒的に多い。レギュラーの中に潜むイレギュラーは、それをエサとして捉えてしまう魚もいるほどのパワーを秘めているのだ。この予測不能ともいえる部分までも、アクションとして使いこなしてこそ、ひとつのルアーをマスターしたといえるのではないだろうか。

●めっちゃ便利な低速リトリーブ
 バスやトラウトでは最も重要で、マスターしやすいのがこの低速リトリーブだ。どれくらいのスピードかというと、「ルアー本来の動き(腰振り、ブレードのロールなど)がなくなるかなくならないかの速度」だ。そのルアーが持つ浮力や重力が、そのルアーを一定層に留めないように働いてしまう。このギリギリの部分にレギュラーとイレギュラーの境界線が存在する。このスピードだと魚がいつ食ってきてもおかしくない。またこのスピードは「釣れない病」疾病時にも有効で、いつもより極力我慢して遅くルアーを巻いてみることによって、簡単に釣れることへつながる。
 もちろんルアー一つ一つ動きが違うので、目の前でルアーを泳がせて動きを見て、このスピードをマスターしてほしい。

●高速リトリーブ
 例えばミノーを高速に巻いてくると急に横を向いて飛び出したりする。もちろんここまで高速なのはマズイが、ギリギリ飛び出さないような速度を保つと、わずかな動きの乱れがルアーに生じる。この動きは海の青物やメッキなどを釣るうえで非常に有効なものだが、これを着水直後のスピナーベイトで応用するとどうなるだろうか。これがバジングである。分かっていただけたかも知れないが、高速というのは何もメッタヤタラに巻いてくるというのではなく、速すぎてそのルアーがバランスを崩す直前のスピードをキープすることなのである。本当はこれをSIN-ZOベイト/心臓リグのただ巻きで水面直下を泳がせると簡単に魚が釣れるのだが、宣伝になりかねないので今回も触れないでおく。

●レギュラーリトリーブ
 さて、あまりイレギュラーについて書くと、ルアーを作っている人に怒られそうなのでここでレギュラースピードについて触れたいと思う。前回も述べたように、魚にとってほとんどのルアーはルアーでしかないようだ。エサとルアーで心拍データにどのように違いが出るかは(面白すぎるので)調べた者の間で秘密にしておくとして、ルアーを襲うのはほとんど攻撃に近い。このためレギュラーリトリーブでレギュラーサイズのルアーを巻くと25〜50cmのレギュラーサイズのバスが掛かる。群れでいうと一番好奇心の強い個体から食ってくる。目的がトーナメントであればこれでよい話だが、あわよくば60オーバーのバスを釣りたい人間は、このレギュラーの動きの中にさえも、イレギュラーが潜むことを知るべきだと思う。それが「環境」のなせるワザだ。例えばクランクベイトをレギュラースピードでグリグリ巻いていて、ボトムという「環境」に到達してしまったら何が起きるだろうか。これがボトムノッキングとなり、反射的に魚が攻撃してしまうことが多いのは周知の事実だ。また、流れの中でミノーを巻いていて急に岩影のタルミに差しかかったらルアーはどうなるだろうか。一時的に流れがなくなり、イレギュラーな動きが生じる。これもよく食われる瞬間だ。他にも水の温度差、濃度差による水塊の境界線(潮目)を横切ったり、ゴミやウイードが外れたりする瞬間が、レギュラースピードの中にいくらでもある。取材で僕が見てきた人間の中でも、ソルト、トラウト、バスにかかわらず、これを食わせるタイミングとして使いこなせる人たちが、常に大きい魚に近い人間だった。



◇習性が違う魚に対するアプローチ
 エサを追って回遊する魚とストラクチャーに居着く魚では、少し習性が変わってくることや、それに対する信号の違いも前号で述べた。ではこれらの魚に対するアプローチ、リトリーブはどう変わってくるのだろうか。

●アウト→イン釣法(アウト→イン→アウト釣法)
 回遊するタイプの魚や、小魚を捕食している魚は「エサが来たら追って捕食」という動きになる。したがってこのような魚の、食欲に訴えるルアーの動きは、「魚のフィーディングゾーン内に一度ルアーが入ってから逃げる」ようなものを演出するほうが効果が高い。例えばシェードや流れ込みなどポイントとして目に見えているものや、水中のストラクチャーなどから、目に見えないような水のヨレなどにいたるまで、「ここで食う」というような場所がある。もしくは魚一匹一匹が、それぞれ狙いを定めて攻撃しやすいエリアがある。そういった場所の中へ外から泳がせてくる時にヒットを誘う、というのが小魚の動きなのだ。
 キャストはヒットゾーン、またはターゲットとなる魚のやや向こう側を狙うとよい。また、泳いでくる小魚を待ちかまえる魚は下から、回遊の魚は真横から獲物を襲うので頭や腹を目標にしている。従ってこの狙い方では、ほとんど腹側のフックに掛かっているものが多いのも特徴。魚がエサを食べたい時間に効率良く使える釣り方である。

●イン→アウト釣法
 居着くタイプの魚が好む動きは、ラバージグのようにバーチカルなものや、ブルブルとしたウォブリングなど無脊椎動物の信号を発するアクションが多い。ここでの無脊椎動物とは、エビ、カニ、昆虫などを指すが、これらは通常ストラクチャーやカバーそのものに棲み、そこからモソモソ出てきたり、オーバーハングした木から真下に落ちて流れていったりと、「魚のフィーディングゾーンの中から外へ出る」傾向が強い。魚はそういった瞬間に追いかけるように食う場合が多いのだ。チョコマカとピンスポット狙いのものや動きがブルブルと大きく、移動距離が少ないものが多いのは、この逃げる動作を長くとるためと考えるとアクションさせやすい。
 キャストそのものはシェードやストラクチャー付近を直撃、もしくはどこかに乗せてポチャリと落とすなど、着水からダイレクトに誘うことが重要で、アクションさせながらその場を離れていこうとするときにヒットする。また、通常無脊椎動物は魚のように素早く自分の判断で逃げる方法をあまり持たない。獲物が「流れ」や「遊泳」などなにがしかのスピードを持っている時には、そのスピードにあわせてゆっくり追いかけて食う。このためこの釣り方では、リアフックに掛かるものが多いのだ。




◇応用編
 ミノーやバイブレーションなどについてはこれまでの説明で分かっていただけたと思うが、水面や、縦の釣りではどうなのだろうか。ジギングを例に説明したい。

●ジギング
 横の釣りをしてきた人間に、メタルジグのジギングはわかりにくいようにおもわれる。ジグは真下にストンと落ちるものではない。また真上にまっすぐ上げるものでもない。これは急なテンションの変化に反応して、横に移動するルアーなのだ。つまりペンシルベイトの首振り。それが理解できればとりあえず簡単に釣ることができる。ジャークにせよフォールにせよ、『急テンション+重さに応じた余韻』が大きく横へ、またはスパイラルさせる本来のキモだ。
 では魚はいったいどこで食うのか、フックを外したジグを用いて様々なシチュエーションで実験してみた。すると、巨大水槽、水中撮影ともに面白いことが分かってきた。巻いているときに食うのはその場にいる中でも小さい魚。大型はフォールの瞬間に落ちる先(もちろん真下ではない)に、いつのまにか居るのだ。もちろん群れの中の社会性も関係してくるが、この話はいづれ述べるのでご覧いただきたい。ちなみに群れは大型の魚が下の層に、小型の魚が上の層になる場合がほとんどである。
 ともかくこの出来事に関しては2つのパターンが考えられる。ひとつはエネルギー効率の問題。
 小さい個体は追い回すエネルギーが、餌のエネルギーで十分に還元されるため、餌を追い回して捕食できる。このため魚を食うタイプの習性になっており、ジグのアクションでスイッチを入れれば、追い回させる釣りが可能。これに対して大型は動くことによって消費されるエネルギーが莫大であるため、捕食に失敗するリスクのある小さな餌を追い回すことができない。このため最も効率のよい位置に移動するだけで確実に捕食できる方がよいのだと考えられる。このため自動的にアウト→イン釣法になってしまうのだ。
 もう一つはレギュラー/イレギュラーの違い。上昇するルアーは一様で、魚にとってはエサではなく、攻撃の対象になっている可能性が高い。このため元気な小型の魚が攻撃していくことになる。これに対し急激にダートしながら猛スピードで下降するルアーというのは、全く予測不能のイレギュラーな存在となりエサのように捕食の対象となるスイッチが入ってしまうのだ。もちろん小型の魚もこれに反応するが、常に下の層で大型の魚が牽制しているためバイトまで至ることは少ない。海の外洋でもジギングには同じ現象が見られるので、この釣りをマスターしておくと楽しいと思う。



小川健太郎/24才。今月から住所不定・無職・貯金0のグランドスラム達成。水産学科で魚類のバイオテレメトリーを専攻。365日連続釣行2クールを含む、総計3200日の釣行を就職までの11年でこなす「釣り場型ひきこもり」。色理論、池原ダムでのヤーガラ、ビッグバドなど、ごく一部のマニアの間だけで知られながら、各社のお情けでひっそり生かされている。SIN-ZOベイトを開発。