2017年1月13日金曜日

日周性、信号(2001年12月BW誌)

2002年2月号に掲載された原稿です。

Academic LAKE Vol.3


◆総合的な知識編
 実際フィールドに立っていろいろ考えることほど、釣りに役に立つことはない。しかし、魚についての基礎的な知識や総合的な知識を身につけておくと、フィールド上で物事を考えるのにも非常に効率がよい。
 今回はルアーフィッシングによるゲームを組み立てる上でも、大切な要素となる様々な事象を考えてみることにしよう。

今月のメニュー

◎マヅメの原理を考える
朝夕に起こる、マヅメとはどういう仕組みになっているのだろうか。

◎日周性を見直す
夜行性、昼行性の常識を撃ち破ることで、シーズンパターンも再考できてしまう。

◎バスから見たルアーとは
ルアーについての常識を再検討する。果たしてバスは、ルアー全てをエサと思って食うのだろうか。

と、後半などほとんど今まで誰も触れたことのない内容で、猛反発を喰らうこと必至かもしれないが、今の業界で信仰されている魚の生態に、あえて一石を投じさせていただきたい。




◎マヅメの原理
 「釣りやすいのは朝マヅメ、夕マヅメ」と、昔からいわれるこのマヅメだが、実はその釣りやすさには簡単な仕組みがある。朝夕に変化するものといえばなんだろうか。まず『温度』、そして『日光の照射量』である。このうち、重要なのは日光のほうなのである。マヅメ、それは日光の照射量の急激な変化にともなう、生命活動の変化なのだ。

●変化はプランクトンから
 光量による生命活動の変化は、まず植物プランクトンに起こる。朝、光量が増すにつれて、植物プランクトンは夜間行っていた呼吸から、酸素を生産する光合成という動作を行うため、その停留層を変化させる。そのシステムはここでは省略するが、日光の当たりやすい上層部へと浮上する。これにともない、植物プランクトンを捕食する動物プランクトンが動くため、それらを捕食するエビや小魚も無防備に捕食行動を開始し、一時的に水中が賑やかになるのだ。夕マヅメも同様に、植物プランクトンの沈降など、停留層の変化にともない、動物プランクトンが動いてしまうため、これらを捕食するエビや小魚が無防備に動くことになる。バスなどの肉食魚を釣る場合、朝夕いづれの場合もキーは動物プランクトンやエビ、小魚が大きく無防備に動くことにあるのだが、植物プランクトンがその行動を誘発する原因になっているということを覚えていただきたい。

●魚の視界も変化する。
 じつは、釣りやすい理由がもう一つある。魚の目は人間に比べて、光の変化に対する順応に非常に時間が掛かる。(明るくなるに条件への適応を明順応、暗くなるにつれて光の感度をあげていくのを暗順応という)この、大きなタイムラグのため、朝は日光の照射量が安定するまで横の光に対してソフトに反射するもの(金、赤、オレンジ)に興味を示しやすい(ピカピカな銀は夜間と同じようにまだ恐怖信号の意味を持っている時間帯だ)。これに対して夕方はこれまで目で糸や仕掛け、ルアーを『見切って』きた魚も、『波(音、動き)』と『化学物質(匂い、味)』でしか周りの世界がわからなくなっている。日没前後の暗い時間帯は、パールホワイト系カラーで動きの強いルアー(大きめのスプーンなど)を魚の目線に持っていくと、捕食しやすいのかよく釣れる。

◎日周性
 簡単にいうと、夜行性、昼行性といったような、魚の一日周期の行動の考え方である。こういうことをハッキリというと一部の学者の方は怒るかもしれないが、『すべての魚が年中夜行性、昼行性のどちらかとは限らない』のだ。スズキの仲間のうち、居着き型のスズキ、そしてラージマウスバスに関しては、特にこういうことがいえる。それは『日照条件の変化にともなう日周行動性の変化』が起きる、ということである。つまり、一年を通じて、夜行性と昼行性がシフトするのである。具体的にいうと、日照時間がイーブンになる春分の日と秋分の日を境に活動性のピークが移り変わっていくということで、春分は朝、夏至は昼、秋分は夕、冬至はなんと夜中という具合に捕食活動のピークがくる、という話である。
 これを例えばこれまでの経験に当てはめていただきたい。ベテランの方ほど夏至の日中などには思い当たるのではないだろうか。よくバス釣りの教本にあるような『冬、バスは寝たようにじっとして…』という表記も、もしかすると本当に休んでいるだけで、(活発ではないにしろ)夜間活動しているかもしれない。
 実際、自然条件下の個人的な実験では、ある程度の群れで育つバスはおおよそ先ほど述べた暴論ともいえるタイムテーブルに近くなるし、単独でいる魚や大型の魚の一部では、全く逆のタイムテーブルになる個体もある。しかしながら、この日照時間の変化が捕食時間の移行へ繋がるということはほぼ間違いないと確信している。
 ※バスの場合、『春の朝』だけははっきりしたデータが出ないのだが、これは産卵活動によるものだと推測している。スズキに関してはおおよそこのタイムテーブル通りであった。

◎バスから見たルアーとは
●ルアーはエサではない
 マッチ・ザ・ベイトという考え方がすべてになってしまう、今のルアー業界はこれまたハッキリ言って迷走していると思う。例えばバスがザリガニを捕食しているときに、「ザリガニのような色」と言われる赤系カラーのクランクベイトを好んで食うだろうか。また食うのならグリーンチャートの同じクランクベイトより、本当にザリガニらしい赤のほうを好んで食うのだろうか。もっといえば、ザリガニそのものを投入すれば必ず食うのだろうか。そのザリガニにまったく似もしないルアーは食わないのだろうか。こう考えてみると、どれも食うし、どれも食わない、という究極の答えになってくる。
 ではカラーも動きもまったく釣果と関係ないのだろうか。それは絶対にない。『関係してくる』と、自信を持って言い切れる。これを言い切るには、姿や動きを似せたルアーで釣るのではなく、すべての肉食魚のなんらかの『反応にある普遍性』を、信号(サインあるいはシグナル)としてとらえることが大前提なのだ。そしてその信号をカラーとして、動きとして、ルアーから発して釣るからこそ、魚がルアーにバイトするのだ。驚くべきことに、じつは、ほとんどのルアーはエサの演出をしてはいない。この『信号』を発しているだけでつれてしまうのである。これは食うときの心拍数を測定すればエサとルアーの違いが簡単にわかるのだが、この話はまたの機会に。

●信号発信機であるルアー
 ルアーというものは、魚の捕食に対する信号を発信している発信機だ。これら信号の中には、『バスが食べているベイトを示す信号』や、『魚種のタイプ(居着き、回遊)によって違う、興奮を誘う信号』、『危険、安心を示す信号』などがある。信号の種類も『波(音、動き)』、『光(シルエット、色彩、反射、透過)』、『化学物質(匂い、味)』という様々な方向から考えることができる。これら信号を重ね合わせて、狙う魚に合った信号、いうなればマッチ・ザ・シグナルを少しでも一般のアングラーにも理解してもらうべきなのである。これが理解できれば他の釣りにもなんなく応用が効き、狙った魚に案外容易に近付けたりするのだ。
 では、信号にはどのようなものがあるのだろうか。これには簡単にチューンしたりできるものと、難しいものがある。簡単なものをあげるならばルアーの音、色、匂いであり、自分でコントロールするのに難しいものはルアーの動き、素材の色(透明度)、味などである。別表に信号の例を挙げてみるので参考にして欲しい。

●反射という言葉
 よく「反射食いってホントにあるの?」と聞かれることがある。僕は「ほとんどが反射です」と答えている。その理由はこうだ。魚がルアーにバイトするまでの順番を考えてみよう。まずバスの場合、本来捕食には聴覚で発見→アプローチ→視覚で認識→嗅覚で確認→攻撃またはバイト→味覚で最終確認→飲み込む、という行程がとられるべきである。べき、という言葉を用いたのは、この行程が大いに省略されている場合がほとんどだからだ。たとえば発見→認知→攻撃など、ルアーによく見られるような『確認抜き』の動作である。これを反射と呼んでいる。われわれ人間が夏、暑さのあまり冷蔵庫を開けて麦茶をとりだして飲み込んだらソウメンの汁だった、というのと同じものだ。つまり、いちいち確認していたらエサが逃げてしまう状況のときや、怒ったときに相手を確認なんてしてられっか、ということなのだ。もちろんニオイによる発見→捕食という場合もあるので確認という作業は「すべての感覚で感知した上での捕食決定を下す動作」と考えていただきたい。そして、これらを総合して考えると、キャスティークやSIN-ZOベイト、大型のベイト(この場合魚)を使ったムーチング(エサ釣り)のように、「食わないがバスがたくさんついてくる」という動作があるものは、すべてエサだと思って確認したがっている、ということが伺える。


図表、イラスト

◆タイムテーブル(●は暗期捕食型◎は明期捕食型、○はその移行時期を示す)

月/ピーク期(本来)の移行。ただしバスの場合、春期は産卵活動によりはっきりしない。
01月●深夜
02月●明け方
03月○日の出(春分)
04月◎早朝
05月◎朝
06月◎正午(夏至)
07月◎昼
08月◎夕方
09月○日没(秋分)
10月●夜
11月●夜中
12月●真夜中(冬至)


◆魚への信号の一例
(バスの場合、回遊はスモールマウスバスやフロリダバスの回遊時などを当てはめてみて下さい。)
・2k〜4kHzのパルス音(音):捕食を示す信号音。バイブレーションに鋭くトウィッチを入れたような音。
・10〜150Hzの持続性低周波(音):魚の遊泳を示す信号音、魚種により異なる。
・ローリング(動き):脊椎動物である魚の動きの信号となっているようだ。回遊系の魚に効く。
・ウォブリング(動き):頭を振るアクションがほとんどで、動きのわりに水を押す力がないため、無脊椎動物である虫の信号となっているようだ。居着きの魚に効く。
・バーチカルアクション(動き):上下運動。無脊椎動物の信号。居着きの魚に効く。
・ダートアクション(動き):水平方向のアクション。脊椎動物の信号。回遊の魚や魚を食べている魚に効く。
・スパイラルジャーク(動き):上昇時は小型の反応、フォール時は比較的大型の反応が得られる。メタルジグでは特に重要。スパイラルは脊椎動物の信号。水平フォールはエビ、魚の両方の信号を兼ねる。
・緑(色):安心色。警戒や緊張を解く信号。無脊椎動物に対して光(透過や反射)として使用すると婚姻の興奮を示す場合もある。
・赤(色):肉食魚自身の信号、および婚姻の信号となり、回遊系でなくとも興奮を示す場合もある。捕食時、自動的に距離をつかむ信号にもなる。
・オレンジ:警戒の信号。ただし小さければ攻撃の対象となる。
・緑の属性(色):虫、エビ、カニ、イカ、タコ、貝など無脊椎動物の信号。淡水と海水の混合、および有機物の混入時には黄緑〜チャート系へシフトする。居着きの魚に効く。
・赤の属性(色):脊椎動物である魚の信号。回遊系の魚に効く。汽水域や有機物混入時など、コーラルピンク(魚肉ソーセージのような色)〜白へシフトする。
・鉄(匂い):脊椎動物の血中成分を示す信号。回遊系の魚に効く。
・銅(匂い):無脊椎動物の血中成分を示す信号。居着きの魚やエビを食う魚に効く。

小川健太郎/24才。大阪府在住、水産学科で漁場学を学ぶ。株式会社フィッシュマン所属。365日連続釣行を2クール、色理論、池原ダムでのヤーガラ、バドなど、ごく一部のマニアの間だけでひっそりと知られる。SIN-ZOベイトを開発。