2017年1月2日月曜日

現場の空論4リフトとフォール(2002年9月未公開)

新年あけましておめでとうございます。
過去の原稿を触っているので、時間感覚が(笑)
今年はいい年になりますように。
そう願う前に、ワタクシは今手元にある小さな幸せを噛みしめることにしています。
きっと全部いい年だったかもしれません。携帯で相手に直接電話できるし、相手の顔もみれる。当たり前の電気、下水道だってあること自体幸せですもんね。

現場の空論
※Sport & Fishing NEWS 2002年の初校原稿です。
第4回(未公開)

text by小川健太郎
〜好き勝手書くのでアテにしないでね

落ちるものは食う、昇るものにはジャレるのではないか、の巻き

リード
 答えを探す過程で必ず通らなければならない「仮説」。釣りというのはこの仮説を実証させることの連続であり、この探究心への深い情熱こそ、ハマってしまう諸悪の根源なのだ。わかったところでなんの人生の役に立つわけではない、数々の仮説。当ページは、この無駄な知識に人生をかける男の物語である。

●ジギングの不思議
 着底ヒット。ジギングでドキドキしながらジグを送り込み、底に着いたか着かずかのうちにヒットしていることがある。これは間違いなくジグが落ちているときに食ったものだが、釣れた魚を見ると、そのヒットした群れの中でも大型であった、ということが非常に多い気がする。これは「落ちるものに反応するのが大型個体?」ということがいいたいのではない。いいたいのは、大型個体はエサを追い掛けまわさないことでカロリー消費を抑えているのではないか、ということだ。つまりこれら落ちるルアーを襲う魚たちはルアーをエサだと判断している可能性が高いのだ。今さら何を…とおっしゃる方もおられるかと思うが、じつはバスやトラウトなどの多くのゲームフィッシュはルアーをエサだと思って捕食しているのではなさそうなのである。もしこれをエサだ、とだけ思って捕食しているなら、ルアーが相当するベイトに対してとる行動と同じ行動を、ルアーに対してもとるはずなのである。しかし、水槽でも現場でも、まったく同じ捕食動作はなかなかとられない。しかも食おうと思っているのなら、ルアーに対して自らの体色をくっきり見せるように変化させて食いつく必要もないはずである。ほかにもエネルギー効率なら、たかだかジグのサイズのエサを30kgもあるようなカンパチが執拗に追い回すことも考えにくい。

●昇るものには小さい魚がジャレてくる!?
 シーバスやバスで、バイブレーションのリフト&フォールの釣りがある。これはプール規模の水槽実験でも見られる行動だが、リフトしている(持ち上げている)最中のルアーに食いつくのは小型の個体が多い。捕食もあるかもしれないが、追い回すだけのものが多い。バイブレーションに限らず小型のジグやジグミノーでも同じような反応が見られる。逆にルアーを落としてやると、追い回していた小型の魚はいなくなってしまい、いつのまにか下の方に大型個体がいて、ルアーが口の中に入っている。大きい個体は動き回っていないし、ジャレてはこないのだ。季節を問わずにこのような反応が見られるところを見ると、やはりこういう習性があるのではないか、という推論がなされてくる。

●落ちるものと昇るものの空論
 魚になった視点から妄想してみるとこうかもしれない。まず肉食動物には逃げていくものを追ってしまう性質がある。ネコでも魚でも、小さい個体ほどこの状態に陥りやすいのだが、この状態になっていると対象物にはジャレつくことが増えて、対象物がおとなしくなってしまうと魅力が半減するのか相手にしなくなる。逆に大きな個体は対象物を追い回すことをせず、待ち伏せや、急にスピードをあげたりと、突発的な動きをする個体が多い。このとき、大型個体が待っているのは対象物が見せる『スキ』である。
 では、泳ぐものにとって、攻撃や捕食の対象となる生物が上へ上がるという行為はどういう状態だろうか。上へ上がろうとしている対象はその先の動きが空気世界へ向いている分、捕らえるのが非常に困難になる。コイのように下向きで、かつ大きい口を持っているなら話は別だが、ほとんどのフィッシュイーターは上向きで下あごでエサを受け取るような口の形状をしている。このような口では、上向きに進むものを口に捕らえること自体、理論上は難しいことになってしまう。このため魚は逃げまどうときに上に向かうということも考えられる。
 攻撃や捕食の対象となる生物が下向きに進む場合はどうだろう。下向きに落ちる条件とは、もともと下のほうで生活していた魚が、なんらかの理由で上に昇っていて下へ戻ったか、上空に危険を感じたかしか考えにくい。肉食魚としては、口の構造上受け止めやすいエサかもしれないが、逆にめったにないシチュエーションとなる。しかし、突発的にしか動きたくない魚にとって落ちる一瞬は食うチャンスなのだ。また、死にそうな魚が泳げなくて落ちるという状態も考えられる。普段自発的に魚を追って捕食している肉食魚たちにとって、こうした「落ちるエサ」というのは、願ってもない幸運なのではないだろうか。

 と、まあ、こんなことを考えていても実際よくわからない。発信機の心拍を見ればすぐに判明することなので、個人的にはカタがついている。最近、大学のブラックバスで続きを調べてみようと思ったのだが、実験個体が次々と謎の変死を遂げてしまった。ようやく発信機をつけてもエサを捕食できるようになっていたのに、非常に残念。死後これらの水槽に魚をいれてみると、どの水槽も金魚やブルーギルすら死に絶えてしまう。酸素も十分となると、なんらかの毒素が原因と考えられ、一説には大学内のバス駆除派の謀略とみられている(笑)。